大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和29年(オ)973号 判決

主文

原判決及び第一審判決を破毀する。

被上告人の請求を棄却する。

総訴訟費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人の上告理由は別紙上告理由書記載の通りである。

被上告人は大阪市警視庁警部補の職に在つたところ上告人の被承継人大阪市警視庁警視総監田中楢一は昭和二五年一〇月三一日被上告人に対する懲戒事案につき同警視庁警視正山瀬鶴夫外二名を委員とする審判委員会のした被上告人を懲戒免職処分に付するを相当とするとの勧告に基き同年一一月四日被上告人を懲戒免職処分に付したのであるが、右懲戒事案の内容は「(1)被上告人は昭和二十二年秋頃知合となつた平瀬正夫及びその妻まつ子と交際するうち右平瀬正夫が在、不在中に拘らず屡々同家に宿泊する等のため昭和二十五年四月頃になつて遂に平瀬より両人に肉体関係ありと疑惑を持たれ交際を拒絶されるに至つたがその後も数回同家を訪れ又六月頃偶然新世界で出遭い飲食中に平瀬に見られて更に疑惑を深くし、(2)又平瀬が詐欺師で且つ博奕打であることを知つていながら敢て金品の貸借をなす等警察吏員としての襟度を忘れふさわしくない行為のあつたものである」というのである。而して被上告人は本訴において右処分の取消を求めるものであるところ、原審の認定した事実は右の事実と異る点もあるけれども、結局原判決も懲戒事由の存在することを認めているのであつて、ただ、被上告人の従前の勤務成績及び改悛の情の顕著であることを参酌して、被上告人に対する本件懲戒免職処分を著しく過重な処分として取り消すべきものとしたのである。およそ、行政庁における公務員に対する懲戒処分は所属公務員の勤務についての秩序を保持し、綱紀を粛正して公務員としての義務を全からしめるため、その者の職務上の義務違反その他公務員としてふさわしくない非行に対して科する所謂特別権力関係に基く行政監督権の作用であつて、懲戒権者が懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶべきかを決定することは、その処分が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である(当裁判所第三小法廷昭和二九年七月三〇日判決(集八巻七号一五〇二頁参照))。本件において被上告人に対する本件懲戒処分が全く事実上の根拠に基かないものであると認めることはできないし、又被上告人の行為に対して懲戒免職処分を選んだことが社会観念上著しく妥当を欠くものと断ずることもできない。そして本件懲戒処分は、前述のように大阪市警視庁設置等に関する条例及び大阪市警視庁基本規定の定める公正な手続による審査委員会の勧告に基いて行われたのであつて、懲戒権者の裁量権の範囲を超えた違法な処分ということはできないから、これを違法として取り消した第一審判決及び第一審判決を是認した原判決は、判決に影響を及ぼすこと明かな法令の違背あるものというべく、ともに破毀を免れず、そして原判決の確定した事実に基けば、被上告人の請求の理由がないことは前述のとおりであるからその請求を棄却することとし、民訴四〇八条一号、九六条、八九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例